国立がん研究センターや理化学研究所などの研究チームは26日、大腸がんの再発や転移を防ぐ可能性がある新たな化学物質を開発したと発表しました。
従来の抗がん剤が効きにくく、再発や転移をしやすい「がん幹細胞」を抑える効果があり、新たな抗がん剤として実用化を目指すといいます。
大腸がんは国内では年間約13万人が発症して、部位別で最も多くなり、年間約5万人が死亡しています。転移がなければ手術で治りますが、転移して再発した場合、抗がん剤を併用して治療を続けるうちに抗がん剤が効かなくなるため、転移がある大腸がん患者の5年生存率は約15パーセントにとどまっています。
大腸がん患者の9割は、細胞の増殖などを制御する「Wnt(ウィント)シグナル」と呼ばれる細胞内の命令系統に異常が生じて、がん細胞やその元になるがん幹細胞の増殖、発生が引き起こされるといいます。
国立がん研究センター研究所の山田哲司(てっし)・創薬臨床研究分野長らは、このシグナル異常に強く関与している酵素を発見。この酵素の働きを妨げることで、がん細胞の増殖を抑える「NCB―0846」と呼ぶ新しい化学物質を作製しました。
人間の大腸がんの細胞を移植したマウスに、この「NCB―0846」を投与したところ、しなかった場合に比べ、腫瘍(しゅよう)の拡大を8~9割抑えられました。特に、従来の抗がん剤が効きにくいがん幹細胞が、新たに腫瘍を作る能力を大幅に抑制できたといいます。
山田さんは、「大腸がんの再発や転移にかかわるがん幹細胞を抑える効果が高い物質を開発できた。動物実験をさらに進め、1~2年後には臨床試験(治験)に入りたい」と話しています。
研究成果は、イギリスの科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ電子版に26日付で掲載されました。
2016年8月27日(土)
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