■世界初のブタ心臓移植を受けた男性、手術から2カ月で死亡 アメリカ・メリーランド大が発表

 人体が拒絶反応を起こさないよう遺伝子操作されたブタの心臓を移植する世界初の手術を受けた男性が、術後2カ月で死亡しました。施術したアメリカの医療チームが9日、発表しました。
 アメリカのメリーランド大学医学部の医療チームによると、1月7日に手術を受けたデービッド・ベネットさん(57)は、3月8日に亡くなりました。術後数週間は拒絶反応もなく経過は良好でしたが、数日前に健康状態が悪化。回復の見込みがなくなったことから緩和ケアを受け、死の直前まで家族と意思疎通ができたといいます。
 医療チームは今後、ベネットさんが死亡した原因を詳しく調べることにしています。
 メリーランド州に住み重い心臓病を患うベネットさんは、手術の約1カ月半前に不整脈で入院し、人工心肺装置が使われていましたが、疾患履歴から通常の心臓移植の対象外とされました。患者の命に危険が迫る中、ほかの手段がない場合の特別な措置として、アメリカ食品医薬品局(FDA)が昨年12月末、移植を緊急許可しました。
 ブタは臓器の大きさや機能が人間と近いものの、そのまま移植すれば免疫による強い拒絶反応が起きます。医療チームは拒絶反応や、人間の体内での過剰な増殖を抑えるため、関連する遺伝子を計10カ所改変したブタの心臓を使い、移植手術は約8時間に及んだといいます。
 この移植手術を通じ、種を超えた臓器提供、いわゆる「異種移植」技術の進歩によって慢性的な移植用臓器不足が解消されるという期待が高まりました。
 メリーランド大学の異種移植プログラムを率いるムハンマド・モヒウディン医師は、ベネットさんの貢献に感謝するとした上で、「遺伝子操作されたブタの心臓が、免疫系が十分に抑制された人体内で十分に機能することを知り、貴重な知見を得ることができた」として楽観的な見方を示し、今後も臨床試験を続けていくと述べました。

 2022年3月10日(木)



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