■日本人の「死因」、認知症が首位に 慶大など過去30年分を解析

 慶応義塾大学やアメリカのワシントン大学の研究グループは21日、日本人の過去30年の健康状態を解析し、2015〜2021年で最も多い死因は認知症だとする研究成果を発表しました。医療技術の高まりなどで脳卒中や肺がんによる死亡が減少し、平均寿命は5・8年延伸しました。健康に活動できる健康寿命も延びたものの、平均寿命との差は拡大しました。
 研究は、世界の人々の健康状態を評価する国際プロジェクト「世界の疾病負担研究(GBD)」の一環で実施されました。欧米諸国では認知症といった長期にわたって症状を悪化させる病気を死因として扱う傾向があります。厚生労働省など国内の政府機関が出す統計とは死因の定義や算出方法が異なります。
 GBDは複数の統計情報などを組み合わせ、死因をより詳細な病気に分類しています。例えばがんは部位別など、140種類に分けて解析しています。
 日本人の死因を解析した結果、2021年時点で「アルツハイマー病や他の認知症」が最も多くなりました。1990年時点では6位でしたが、上位を占めていた脳卒中や虚血性心疾患が医療技術の発展や健康意識の高まりなどによって大きく減少し、2015年から認知症が1位となっていました。
 2021年の認知症による死亡数は10万人当たり約135人と、イタリア(同約108人)やアメリカ(同約60人)を超え、世界で最も多くなりました。
 厚労省の人口動態統計は死亡届を基に集計しています。誤嚥(ごえん)性肺炎や肺炎のほか、いわゆる自然死である老衰が死因の上位を占めます。認知症はこうした死因の切っ掛けとなります。認知症に詳しい東京大学の岩坪威教授によれば、「認知症の原因となる病気では嚥下障害が合併症として現れることが多いほか、寝たきりでは飲み込み自体もむずかしくなり、誤嚥性肺炎などにつながる場合がある」といいます。
 今回の研究によると、日本人の平均寿命は男女合わせて2021年時点で85・2歳と1990年から5・8歳延びました。脳卒中や虚血性心疾患、がんなどの死亡率の減少が寿命の延長に貢献しました。自立して生活できる期間を指す健康寿命も69・5歳から73・8歳に延びました。平均寿命との差は9・9年から11・3年に拡大しました。健康を損なってから、亡くなるまでの時間が長くなっていることを示します。
 都道府県別に解析したところ、平均寿命が最も長いのは滋賀県で86・29歳でした。最短は青森県の83・41歳で、差は約2・9年でした。1990年時点の最長の沖縄県(80・56歳)と最短の大阪府(78・29歳)との差である約2・3年から広がりました。
 今回の研究は病気の発症につながるリスク要因も分析しました。近年では高血糖や肥満などの指標が高まっていました。働き方の変化や食生活の多様化などが影響しているとみられました。高血糖や肥満などは認知症の発症リスクとも関連するとされ、GBD日本の野村周平慶応大・特任教授は「個人でも生活習慣に注意を払うことが認知症対策に役立つ」と話します。
 厚労省研究班の調査では、認知症高齢者は2050年に586万人に上る見通しです。今後、高齢者の単独世帯も増加すると見込まれ、社会的孤立は認知症になりやすくなるとされます。東大の岩坪教授は介護や社会福祉に加えて、「予防や医療の体制なども強化し、患者が安心して生活できる環境を整えて死につながるリスクを減らしていく必要がある」と指摘します。
 研究成果をまとめた論文は、国際医学誌「ランセット・パブリック・ヘルス」に掲載されました。

 2025年3月21日(金)

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