慶応大などの研究チームは、事故などで脊髄を損傷して体が動かせず感覚もなくなった患者にiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経のもとになる細胞を移植する臨床研究を行った結果、4人のうち2人に運動機能の改善が見られたと発表しました。チームはiPS細胞を使った脊髄損傷の治療で症状の改善が見られた世界初のケースだとしています。
慶応大などの研究チームは、事故などで脊髄を損傷して体が動かせず、感覚もなくなった18歳以上の4人の患者に、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞200万個を移植し、手術から1年たった時点で運動機能を評価する臨床研究を行いました。
このうち不慮の事故で脊髄を損傷した高齢の男性は、支えなしで立つことができる状態になり、歩く練習を始めているということです。
男性の運動機能のスコアは5段階のうち最も低い「A」から3段階改善して「D」と評価されました。
また、残り3人のうち1人はスコアが2段階改善して「C」と評価され、立つことはできないものの自分で食事をとれるようになったということです。
ほかの2人のスコアは改善しませんでした。
4人に重い健康被害などは確認されなかったということです。
脊髄損傷の患者はリハビリを行うと運動機能が改善することがありますが、スコアが最も低い「A」から2段階以上改善するケースは10%程度だということです。
今回は4人のうち2人で運動機能が2段階以上改善したということで、チームはiPS細胞を使った脊髄損傷の治療で、症状の改善が見られた世界で初めてのケースだとしています。
脊髄損傷は国内で毎年5000人以上が新たに患者になるとされていて、チームは今後、国の承認を目指した治験を行うとしています。
研究チームの岡野栄之教授は、「世界で初めてのiPS細胞を使った脊髄損傷の治療で結果を出すことができた。iPS細胞を使った研究はなかなか成果が出ずにつらい日々もあったが、安全性の確認と有効性の推定に値する結果で、治験に進んでいきたい」と話していました。
研究チームは治療の実用化に向けた治験を実施するとともに、治療の内容を改良したり対象となる患者を広げたりして、効果の高い治療法の開発に取り組みたいとしています。
今回の臨床研究では、患者1人に投与する細胞の数を動物実験で安全性が確認された200万個としましたが、今後はさらに細胞の数を増やすことも検討するということです。
また、脊髄損傷になってから時間がたった慢性期の患者を対象にした治験を行うほか、リハビリとどう組み合わせれば効果的な治療となるか、検討したいとしています。
今回の臨床研究で患者の手術を行った慶応大の中村雅也教授は、「今回発表したデータは詳しく解析する前の段階のものだが、次のステップにつながる光の見える大きな一歩だと思っている」と話していました。
2025年3月23日(日)
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